数年前の夏、高校二年生。
私は貧乏性なので緑に変色した肉を火を入れたら大丈夫だろうと食べた。
次の日、中学生の吹奏楽コンクールで炎天下の中、駐車場で車を誘導をしていた時に嫌な感じがした。
友人に「お弁当食べたら治る」とわけのわからないことを言われたけれど食欲もあまりなくて残してしまった。
その嫌な感じはどんどんと私の感覚を蝕んでいって、目の前が暗くなっていった。
会場の楽屋の一室に寝かされて、母が呼ばれることになったが、仕事が抜けられないとのことで救急車を呼ばれた。
タンカで運ばれていく時に情けないやら、恥ずかしいやらそんな気持ちが入り混じって泣いていた。
案の定食中毒と熱中症を併発した。
病院独特のツンとした匂いと、真っ白な景色の中で点滴を受けていると母が走ってやってきた。
ただ、それは私が心配というよりも顧問に付き添わせたことによる罪悪感なのかなといった感じの走り方だった。
私は実家に帰りたいと泣いた。
一旦私の荷物を取りに会場へ戻り、そのあと私の家に行く最中に土砂降りの雨が降ってきた。嵐とも見まがうような。
私は思い出してしまった、今日に限って、家の大きな窓を開け放して外出してしまったことに。
母は部屋に着くなり車で待っている私に電話をかけてきてとんでもない状況だと伝えた、しかし私は熱とどうしようもない腹痛と当時付き合っていた彼氏との関係の悪化でもうトリプルパンチでやばかったのである。
「無理だよ…手伝いにいけない」
そう告げたが何度も電話はかかってきて
その度に母の声は深刻になっていった。
もう仕方ないと死ぬ気で起き上がって自分の部屋に向かう、そこにはまるで川のようになった部屋と疲れ切った母がいた。
私が悪かったのはわかったからなんでこうも全部重なるんだ。
私って本当に世界で一番不幸な美少女!とおジャ魔女のどれみちゃんばりに叫びたくなった。
2人で雑巾で水を吸い取ってはバケツに入れる
ああ、それしってるよ。
運動会の前日に雨が降ってしまったとき、同じことをしたよ。なんでいま家の中でそれをしてるのかと思ったら、シュールだなと思って苦笑いした。
長い時間をかけて終わった掃除の後、なんだか変な空気になった。
ふと母が、
「もう、しっかりしてよ。お母さんいつ死んじゃうかわからないんだから」
とメンヘラのようなことを口走るので
「なんで今そんなことを言うんだ。」と不謹慎ババアめと怒りを込めて言った。
次の瞬間ざんざん降りの雨の音で聞こえないフリをしたかったが聞こえてしまった。
「お母さん乳がんになっちゃった 」
これが悪夢なら覚めてほしいとこんなに願ったことは人生でそんなにないな、と冷静に思ったあと発狂したように抱きついて泣いた。
私の叫び声が響く室内は雨の音と私の声だけで、不気味で怖かった
人生で初めて熱中症になるし、人生で初めて食中毒になるし、彼氏とはうまくいかないし、友達もその話をしていると私に呆れ気味だし、私だってコンクール近いのにこんなになっちゃって、その上こんなのってないなあ。
細木数子の占いなら私今もしかして大殺界というやつなのかも知れない。
「あなた死ぬわよ」
と心の中の細木数子だか佐々木和子だかが言っている。
ああ、何度もいうけど悪夢なら覚めてほしい。
と強く思ってから月日は流れ
母は手術を受け無事成功して今も生きている。
チャンチャン。